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管理人の書いた二次創作SSです。 BL・腐女子がNGな方は閲覧しちゃだめですよ。
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2024.05.19 Sunday
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2012.07.07 Saturday
「昔話の終わりの時に僕が最後に望むもの。」
 
 
 
 
 
「ねぇ。」
 
 
 
気怠そうに呼び掛けてくる声。



空気が春の様相を呈して早、幾日。
 
 
彼という存在は、其の空気にそぐ似わない。
 
 
未だ冬の中に留まろうとしている。
 
 
独りで。
 
 
 
 
 
 
「紫呉。聞いてるの?」
 
 
 
草摩家の現当主・慊人は此方に目も向けることなく、再び声を掛けてくる。
 
 
 
「ええ、聞いていますよ。慊人さん。」
 
 
 
 
外は桜が満開の季節。
 
寧ろ其れも過ぎようかという頃。
 
晴天。
 
春特有の黄味を帯びた水色の空に、薄く刷いた様な白い雲。
 
其れを背景に、庭に在る桜の木の、飽和状態と化した淡い紅色の花弁が、風に吹かれて舞い落ちる。
 
其の暖かい風は時折強く吹き、散らせた花弁を部屋の中へも舞い込ませた。
 
そんな花弁に至極つまらないものでも見るかのような視線を送り、拾って指先で弄ぶ慊人の姿。
 
今日は体調も良いらしく、普段開放することの無い、庭に面する戸を開け放し、
部屋と縁側の境界の柱に凭れ掛かっていた。
 
 
 
「由希はどうしてるかなぁ?」
 
 
 
さして興味も無さそうに尋ねてくる慊人を紫呉は見遣った。
 
 
 
其の年にしては痩せ過ぎた体。
 
纏う白い着物も余り緩んでいる。
 
垣間見える白い項に掛かる漆黒の髪。
 
付き纏う病的な空気。
 
実際、体が弱いのだが、其れ以外にもそう感じさせるものが彼には有った。
 
 
 
「そうですねぇ。
 
・・・今日は此んな天気ですし、日曜ですから何処かに出掛けているかも知れませんねぇ。」
 
 
 
薄暗い部屋の中、中央に敷かれた寝具のかたわ傍らに座っていた紫呉は
ゆっくりと立ち上がりなが乍ら返答する。
 
 
 
「透君と皆で。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
桜の花弁を弄っていた慊人の指が不意に動きを止める。
 
わざと彼女の名前を出した。
 
慊人を苛立たせるつもりで。
 
 
 
「僕を置いて。気にも掛けずに・・・自分達だけ楽しんでるっていうの?」
 
 
 
声色が変わる。
 
怒りを含んだ声。
 
そんな事は赦さない、赦せない。という感情を隠すことなく滲ませる。
 
外を向いている為、其の表情は窺い知れないが、
どんな顔をしているかは、紫呉には容易に想像出来た。
 
 
 
自分だけ仲間外れにされた気持ちか。
 
神である自分が常に十二支の中心で無いと厭なのか。
 
絶対的存在で有ることを常に見せ付けないと済まないのか。
 
自分のものが人の手に渡るのが厭なのか。
 
自分のものが他に心を取られるのが厭なのか。
 
 
 
兎にも角にも幼い子供のような反応。
 
自分は勝手気侭に振る舞い、普段関心の無い者には碌に気を向けもせず振り返りもしないくせに、
其の者が他者に気を向けると赦さない、と云う。
 
なんて我が儘なご当主か。
 
そんな彼に此処まで付き合っている自分に感心することがある。
 
 
 
(まぁ、透君や由希のことで話した時の反応が愉しいというのもあるんだけれど。)
 
 
 
余りにも想像通りの反応をしてくれて・・・・笑えてしまう。
 
慊人は十二支の頂点に立つ、主たる存在。
 
神。
 
 
 
でもね。
 
全てが貴方の思い通りにはいかないんですよ、慊人さん。
 
 
 
 
 
ゆっくりと歩を進めた紫呉は、慊人の傍まで来ると立ち止まった。
 
視線は桜の木に合わせられ、慊人を見る事は無い。
 
そのまま、紫呉は白々しく言葉を発する。
 
 
 
「さて。僕も今日は誰とも顔を合わせずに出てきたんで、本当のところは分かりませんけどね。
 
・・・ああ、でも透君は、確か今日は友達と会う約束があるとか云ってたかな?」
 
 
 
口を噤んだ慊人が、突然紫呉を見上げた。
 
睨むような視線を向ける。
 
 
 
「お前…僕のことをどう思ってるの?」
 
 
 
不機嫌な声と視線を意に介さないまま、紫呉は答える。
 
 
 
「大切に思っていますよ。」
 
「嘘だね。お前、嘘を吐いてる。」
 
「何故そう思うんですか、慊人さん?」
 
 
 
そう尋ねて慊人を見る。
 
襟元から垣間見える白い肌と細い鎖骨。
 
黙って居ればもう少し可愛気も有るんですけどね。
 
貴方が口を開くと、碌でも無い言葉しか出て来ないから。
 
そんなことを思いながら、紫呉は突然、壊したい、という衝動に駆られた。
 
 
 
————————何を?一体何を壊したい?
 
 
 
紫呉の思いを知らず、深く昏い紫の瞳をこちら此方に向けたまま、外すこと無く慊人は続ける。
 
 
 
「紫呉。お前、最近優しくないんだよ。」
 
「そうですか?」
 
「前はもっと優しかった。もっともっと優しかった。もっと僕のことを見てた。でも今は違う。
 
…あの女が来てからだよ。」
 
 
 
見てないのは貴方ですよ、慊人さん?
 
貴方が必要とするならば、僕はもっと優しくするのに。
 
何処まで真実と現実が見えていないんですかね、貴方の目は。
 
 
 
紫呉はいつもと変わらぬ調子で答える。
 
 
 
「それは透君のことですか?」
 
「あの愚かな女以外、誰が居るんだよ!」
 
 
 
そう言って慊人の声は激しくなってゆく。
 
 
 
「勘違いも甚だしいんだよ!あの女なんかが僕達の間に入り込めるはず無いんだ!
 
なのにあの女はいつ何時までも図々しくあの家に居る!
 
お前達もお前達だっ!何故追い出さないんだよ?!・・・っ!!
 
そしてあの女も・・楝も僕を・・・っ!当主は・・・神は僕なのにっ・・・!!」
 
 
 
途端、慊人は体を折り曲げ、床に伏せて苦しそうに咳き込む。
 
 
 
「大丈夫ですか、慊人さん?」
 
 
 
紫呉は膝を着いて慊人の細い肩に手をやる。
 
はとりを呼びましょうか、そう口を開きかけた時、慊人が紫呉の胸元を掴んで自分に引き寄せる。
 
呼吸を乱しながら間近に迫る紫闇の瞳。
 
互いの唇が触れそうな程の距離。
 
 
 
「あの女も…お前達も。此れ以上勘違いしないでよ。」
 
 
 
 
 
いつまでも勘違いしているのは慊人さん、貴方ですよ。
 
本当に愚かな人だ。
 
皆が何時までもあの頃のままだと思って。
 
その傍若無人な振る舞いも何時まで続けられるんでしょうね。
 
 
 
 
 
「分かっていますよ。」
 
「・・・だったら良いんだ。」
 
 
 
落ち着きを取り戻した慊人は、打って変わって笑顔を作る。
 
そして慊人は、つ、と其の白く細い指を紫呉の首筋に滑らせ、
肩口近くまで来るとそのまま両腕でしがみ付いた。
 
 
 
「外を見るのも飽きた。・・・・ねぇ、運んでよ、紫呉。」
 
 
 
耳元で囁く声。
 
それに応じながら紫呉は思う。
 
 
 
慊人さん。 「神」なんて、絶対的なものではないんですよ。
 
一歩外に出れば、其れは異端のもの。
 
全てにおいて、其の絶対的な権力を振るおうなんて無理な話。
 
周りに誰も居なくなった時。
 
最後に貴方は何を思い、どんな言葉を吐くのでしょうかね?
 
僕は其の時が来るのを楽しみにしているんです。
 
愚かな神よ。
 
 
 
抱き上げた慊人の体を敷かれた寝具に横たえながら紫呉は囁く。
 
 
 
「愛してますよ、慊人さん。」
 
「僕に対して、よくもそんなことが口に出来るね、紫呉。」
 
 
 
慊人は言葉とは裏腹な声音で、満足気で支配者的な笑みを浮かべる。
 
そして紫呉の首に回した腕を離すこと無く引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
 
 
 
 
 
偽りの言葉、偽りの気持ち。
 
真実の声、真実の心。
 
嘘か真か。
 
 
 
そんなことはどうだっていい。
 
一番最初に裏切って。
 
それに気付かせること無く、話の終わりへ行き着いて。
 
一番最後に貴方を突き放す。
 
 
 
貴方の一番になれないのならせめて。
 
一番近くで一番最後に、取り残された貴方の顔が見てみたい。
 
 
 
壊れた世界。
 
壊した世界。
 
僕が壊した貴方の姿。
 
何よりも僕が求めるもの。
 
岐度、貴方は呉れないから。
 
だから僕は自分で口にする。
 
 
 
「愛してます。」
 
 
 
紫呉は、自分の背に腕を回したまま白い海へと倒れ込む慊人の腰に手を回し乍ら、
自分に呪文を掛ける様にそう囁いた。
 
 
 
 
 
そう —————— 最後までね。
 
 
 
  
 
 
 
 
 
END
 
















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